THE YES MEN
2009/5/13
The Yes Men
2003年,アメリカ,80分
- 監督
- ダン・オールマン
- サラ・プライス
- クリス・スミス
- 撮影
- ダン・オールマン
- クリス・スミス
- 出演
- マイク・ボナーノ
- アンディ・ビックルバーム
- マイケル・ムーア
笑いで権力者をおちょくるユニット“The Yes Men”。彼らを最初に有名にしたのは大統領選の最中にジョージ・W・ブッシュの公式サイトそっくりのサイトを作り、彼をほめ殺ししたこと。選挙が終わると彼らの次なるターゲットはWTOに。世界の公正な貿易のための機関といいながらグローバル企業の利益ばかりを守る巨大な組織を果たしてどう“いじる”のか…
このThe Yes Menのやることがとにかくすごい! 笑いながらグローバル化のお勉強にもなる優秀な作品。
WTO(世界貿易機関)というと国際組織でちゃんとした機関であるという印象がある。しかし実際のところただただ自由貿易を推し進める期間であり、自由貿易によって発展途上国の“発展”を目指すといいながら、結局グローバル企業の利益が増すようなシステムばかりを作り上げている。
このこと自体よく知らなかったのは私の不勉強だが、そのことを説明臭く説明するのではなくわからせてくれるのがまずこの作品のすごいところだ。
そしてそんなグローバル企業の味方WTOの代表者に成りすまし、The Yes Menは彼らのそんな姿勢を明らかにする。そもそも簡単にWTOの代表に成りすますことができ、会議に呼ばれたり、TVに出られたりしてしまうのが驚きだ。そうなる要素としては彼らの理論武装のすごさももちろんあるのだが、WTOという組織が巨大すぎてすべての活動を把握しているような人間がいないということも大きな原因になっているだろう。
そんな巨大なWTOの代表に成りすまし、フィンランドの会議で講演するというのが今回の彼らの目的。前回はまともにやりすぎて微塵も疑われなかった反省(?)を生かして今回はもっと過激に、全身金色で巨大な男根を思わせるモノがついたスーツを披露するというアイデアをつめていく。
このスーツ(管理職の休日という名前がついている)が傑作だ。巨大な男根の先にはモニターがついていて、休日やバカンス中でもそのモニターで労働者の様子が(ハンズフリーで)監視できるというものだ。さらに彼らはコンピューターチップを労働者の肩に埋め込んで労働時間の管理もできるとのたまう。
この装置は講演が奴隷制度の説明から始まったことからも明らかなように現代の生産システムが実質的に奴隷制と変わらないことを示唆している。そのことは火を見るより明らかなのだが、会議の参加者たちは「権威ある」WTOの代表者の意見を露ほども疑わず、まともに取り合って、新聞にデカデカと写真まで出てしまう。
今回もまた彼らは疑われずに終わってしまい、失敗(?)してしまったわけだ。
このあとさらにニューヨークの大学での講演、オーストラリアでの講演と二つの講演があるのだが、それもまたかなり傑作。WTOという組織のありようを過激な形で聴衆と私たち観客に示すとともに、“権威”というものが受け手にどのように作用するかをも審らかにする。
彼らが明らかにするのはまったく同じ言葉でもWTOの代表者が言ったのと“The Yes Men”が言ったのとではまったく別に聞こえるということだ。だから彼らはまず権威ある存在に成りすましてその言葉を届け、そのあとでネタバラシする事によってその言葉を信じた受け手自身の心理作用を暴露することだ。WTOの代表の言葉と信じて彼らの管理職の休日スーツを真に受けてしまった人々は、それが嘘だと明らかになったことでそれを信じてしまった自分自身に気づく。それは自分自身が奴隷制度と変わらない制度を支持する人間であり、同時に権威を無批判に受け入れてしまう人間だということだ。
彼らの行動を克明に記録したこの作品はすごく面白いが、その面白さの中心は彼らの“ジョーク”を受け止める人々のさまざまな反応にある。それを引き出す彼らの活動は本当に面白いし感心してしまう。第2作も作られているそうだから、そちらもぜひ観てみたい。